スーパーロボットの原点にして頂点・マジンガーZの新たな戦いをダイナミック&ドラマチックに描いた新作アニメ『劇場版 マジンガーZ/INFINITY』(公開中)。4D上映映えする必殺武器のオンパレード描写によるマジンガーZの活躍はもちろん、主人公・兜甲児&ヒロインの弓さやか、さらに続編「グレートマジンガー」のキャラクターたちのその後まで緻密に描かれた大人向けのドラマとしても充分に楽しめる作品に仕上がっている。
そんな同作の脚本を担当したのは、ゲーム業界の人間模様を描きドラマ化もされた「東京トイボックス」「大東京トイボックス」などを手掛けた漫画家ユニット・うめの小沢高広だ。
■ きっかけはグレートマジンガーへの“リベンジ”
「子どものころからロボットアニメはいろいろ見て、『マジンガーZ』も再放送で見ていた世代です。番組をずっと見続けていると、最終回にボロボロにやられてグレートマジンガーが助けに来るショッキングな展開がありますよね。あれが子どもには理不尽だったんですよ。マジンガーZって機械獣と戦って、結構ボロボロに傷つきながらも最後は必ず勝ってきました。それが勝てなかった時のハシゴを外された感…(苦笑)。さらに、見ず知らずのグレートマジンガーが出てきて『え、勝っちゃったよ…』と憤りにも近い衝撃を覚えたのが原体験です。だから、そのあとから始まった『グレートマジンガー』を、しばらくは素直に見ることができなかったんですよ。グレートが許せなくて(笑)」
「それで、今回は構図を逆にしたんです」と、当時の気持ちが本作のコンセプトに大きく関与していることを明かす。「マジンガーZがグレートマジンガーを助けるストーリーで、やっと僕の心のバランスもとれました(笑)。オファーをいただいた際、真っ先にプロデューサーへ『あの時のリベンジをさせて下さい!』とお願いして、ダイナミック企画さんも『それで行きましょう』と許諾してくれたんです(笑)」
■ さやかとジュンを巡る“妊娠”事情
プロデューサーからは「『大東京トイボックス』のノリで(脚本を)書いていただけませんか?」とオファーされたという。「その時点でアクションよりもドラマ要素を求められているんだな…」と思って手掛けたシナリオは、思っていた以上にキャラクターのドラマがしっかりと描かれていた。
「ヒロインたちを描くにしても、70年代当時と現在だとジェンダー感がまるで違いますよね。まず(主人公・兜甲児の恋人)弓さやかを男子の添え物的には決して描けないし、描きたくありませんでしたから。アニメから映画に至るストーリー上の10年間、2人にとってずっと一緒に過ごしてきたと考えると、さやか自身もいつまでもただのヤキモチ焼きの女の子ってわけにはいかない。10年でそれなりのことを遂げていないと(甲児との関係性が)もたないと思ったんです。それに10代後半~20代後半は多感な時期です。その10年間を一緒に居続けるのは、さやかも相当強くなければだろうな…と(笑)。そういう意味でも彼女の強度を上げようと、光子力研究所所長として責務を負う立場になりました」
実は当初、さやかは甲児との子どもを身籠っている…という設定も考えられていたそう。「さやかが妊娠していて、その間にゲストヒロインがちょっかいを出すというアイデアがあったんです。いわゆる妊娠中の浮気疑惑?…というゲスなプロットに落とし込もうという発想だったのですが、さすがにメインヒロインのさやかを妊娠させるのは…と、ダイナミック企画さんより指摘が入りまして。確かにそこまでの色恋沙汰をあの世界で描くのも…と考え直した際に、娘ポジション的に…と、思いついたのがリサなんです。そこからは彼女の立ち位置・性格などもするすると決まり、良いさじ加減で描けたと思います」
代わりに妊娠したのが、グレートマジンガーのパイロット・剣鉄也と結ばれたヒロイン・炎ジュンだ。「鉄也を助けるために、無茶してビューナスAで出撃しようとした時の、狭いコックピット内での彼女の『お腹がつかえてフットペダルが踏めない』という台詞はものすごく気に入っていて。このシチュエーションはロボットアニメ史上初だと思います(笑)。うちの妻がお腹が大きくなって、自転車に乗ろうとした時にそういう経験をしていて、『これはなにか(の脚本)に使えないかな…』と思っていたのですが、まさかロボットアニメで使えるとは思っていませんでした(笑)」
その前に挿入されたジュンと鉄也の回想シーンも印象深い。「鉄也とジュンは、それこそかぐや姫の『神田川』に出てきそうなアパートで暮らしていて、2人には昭和ノスタルジーを背負ってもらっています。実は映画の前日談的なコミック『マジンガーZ インターバルピース』(ヤンマガKCスペシャル)の脚本も担当させてもらったのですが、そちらで“なぜ鉄也が高層マンションに首を縦に振らず、あのアパートを選んだのか?”というエピソードで1話分書かせてもらっています。不動産会社が疲れる系のストーリーです(笑)」
■ ハマリ過ぎ!なラーメン店主・ボスの男気
さらに、「マジンガーZ」の重要キャラクターとして忘れてはならないのが、コメディリリーフにして助っ人(?)でもあるボスの存在。10年後のボスは子分たちと一緒に、ラーメン店を営んでいる。「ボスのラーメン店主という設定も最初に決まってぶれなかったですね。変にスープとかにこだわるのではなくスタンダードなラーメン店で、脚本上ではチャーシューの枚数や具まで指定していました(笑)。ボスのラーメン店のエピソードだけでも、『インターバルピース』1話分のエピソードになっていて、ボスがチャーシュー巻いていたりします(笑)」
お騒がせ番長でトラブルメーカー、でも決して憎めないボスが店を訪れた親子連れにウインナーをサービスする何気ない描写にも、とことんこだわりが込められている。「子連れで飲食店に行くとどうしても子供がお店で騒いじゃうことはあって、それを和ませる意味合いのシーンですね。最初コンテでは手前にポンと置くだけの描写だったのですが、手前の男性客が一瞬嫌な顔をして、出してから戻る際にボスが『すみませんね』と手刀切って頭を下げるくらいの描写が必要って話をして追加してもらっています」
マジンガーZで縦横無尽・武器乱舞の活躍を繰り広げる甲児も、約10年ぶりに前線に立つに際し、映画オリジナルキャラのリサに苦悩や葛藤を告げるシーンが印象的だ、その際、彼が反芻するのが「神にも悪魔にもなれる」というセリフ。「永井豪先生の原作でもアニメでも最初、甲児は死に際の祖父・兜十蔵博士からこの言葉と共にマジンガーを託されました。以来、人類のために戦い続けた彼にとって、この言葉はキーになり続けたはず…と考えて、今作でも使わせてもらいました。凄みがあって、さまざまな解釈ができる言葉ですよね」
「描きたいことを全部入れたら多分、倍以上の尺になっていました(笑)。ですけど小説や『インターバルピース』も含めて、キャラクターを十分に描かせてもらえました」という小沢。従来のファンも、新たに見る観客もロボットのみならず、スクリーンで生きるキャラクター1人1人に感情移入させられる物語を、じっくり味わってもらいたい。(Movie Walker・取材・文/トライワークス)
■ きっかけはグレートマジンガーへの“リベンジ”
「子どものころからロボットアニメはいろいろ見て、『マジンガーZ』も再放送で見ていた世代です。番組をずっと見続けていると、最終回にボロボロにやられてグレートマジンガーが助けに来るショッキングな展開がありますよね。あれが子どもには理不尽だったんですよ。マジンガーZって機械獣と戦って、結構ボロボロに傷つきながらも最後は必ず勝ってきました。それが勝てなかった時のハシゴを外された感…(苦笑)。さらに、見ず知らずのグレートマジンガーが出てきて『え、勝っちゃったよ…』と憤りにも近い衝撃を覚えたのが原体験です。だから、そのあとから始まった『グレートマジンガー』を、しばらくは素直に見ることができなかったんですよ。グレートが許せなくて(笑)」
「それで、今回は構図を逆にしたんです」と、当時の気持ちが本作のコンセプトに大きく関与していることを明かす。「マジンガーZがグレートマジンガーを助けるストーリーで、やっと僕の心のバランスもとれました(笑)。オファーをいただいた際、真っ先にプロデューサーへ『あの時のリベンジをさせて下さい!』とお願いして、ダイナミック企画さんも『それで行きましょう』と許諾してくれたんです(笑)」
■ さやかとジュンを巡る“妊娠”事情
プロデューサーからは「『大東京トイボックス』のノリで(脚本を)書いていただけませんか?」とオファーされたという。「その時点でアクションよりもドラマ要素を求められているんだな…」と思って手掛けたシナリオは、思っていた以上にキャラクターのドラマがしっかりと描かれていた。
「ヒロインたちを描くにしても、70年代当時と現在だとジェンダー感がまるで違いますよね。まず(主人公・兜甲児の恋人)弓さやかを男子の添え物的には決して描けないし、描きたくありませんでしたから。アニメから映画に至るストーリー上の10年間、2人にとってずっと一緒に過ごしてきたと考えると、さやか自身もいつまでもただのヤキモチ焼きの女の子ってわけにはいかない。10年でそれなりのことを遂げていないと(甲児との関係性が)もたないと思ったんです。それに10代後半~20代後半は多感な時期です。その10年間を一緒に居続けるのは、さやかも相当強くなければだろうな…と(笑)。そういう意味でも彼女の強度を上げようと、光子力研究所所長として責務を負う立場になりました」
実は当初、さやかは甲児との子どもを身籠っている…という設定も考えられていたそう。「さやかが妊娠していて、その間にゲストヒロインがちょっかいを出すというアイデアがあったんです。いわゆる妊娠中の浮気疑惑?…というゲスなプロットに落とし込もうという発想だったのですが、さすがにメインヒロインのさやかを妊娠させるのは…と、ダイナミック企画さんより指摘が入りまして。確かにそこまでの色恋沙汰をあの世界で描くのも…と考え直した際に、娘ポジション的に…と、思いついたのがリサなんです。そこからは彼女の立ち位置・性格などもするすると決まり、良いさじ加減で描けたと思います」
代わりに妊娠したのが、グレートマジンガーのパイロット・剣鉄也と結ばれたヒロイン・炎ジュンだ。「鉄也を助けるために、無茶してビューナスAで出撃しようとした時の、狭いコックピット内での彼女の『お腹がつかえてフットペダルが踏めない』という台詞はものすごく気に入っていて。このシチュエーションはロボットアニメ史上初だと思います(笑)。うちの妻がお腹が大きくなって、自転車に乗ろうとした時にそういう経験をしていて、『これはなにか(の脚本)に使えないかな…』と思っていたのですが、まさかロボットアニメで使えるとは思っていませんでした(笑)」
その前に挿入されたジュンと鉄也の回想シーンも印象深い。「鉄也とジュンは、それこそかぐや姫の『神田川』に出てきそうなアパートで暮らしていて、2人には昭和ノスタルジーを背負ってもらっています。実は映画の前日談的なコミック『マジンガーZ インターバルピース』(ヤンマガKCスペシャル)の脚本も担当させてもらったのですが、そちらで“なぜ鉄也が高層マンションに首を縦に振らず、あのアパートを選んだのか?”というエピソードで1話分書かせてもらっています。不動産会社が疲れる系のストーリーです(笑)」
■ ハマリ過ぎ!なラーメン店主・ボスの男気
さらに、「マジンガーZ」の重要キャラクターとして忘れてはならないのが、コメディリリーフにして助っ人(?)でもあるボスの存在。10年後のボスは子分たちと一緒に、ラーメン店を営んでいる。「ボスのラーメン店主という設定も最初に決まってぶれなかったですね。変にスープとかにこだわるのではなくスタンダードなラーメン店で、脚本上ではチャーシューの枚数や具まで指定していました(笑)。ボスのラーメン店のエピソードだけでも、『インターバルピース』1話分のエピソードになっていて、ボスがチャーシュー巻いていたりします(笑)」
お騒がせ番長でトラブルメーカー、でも決して憎めないボスが店を訪れた親子連れにウインナーをサービスする何気ない描写にも、とことんこだわりが込められている。「子連れで飲食店に行くとどうしても子供がお店で騒いじゃうことはあって、それを和ませる意味合いのシーンですね。最初コンテでは手前にポンと置くだけの描写だったのですが、手前の男性客が一瞬嫌な顔をして、出してから戻る際にボスが『すみませんね』と手刀切って頭を下げるくらいの描写が必要って話をして追加してもらっています」
マジンガーZで縦横無尽・武器乱舞の活躍を繰り広げる甲児も、約10年ぶりに前線に立つに際し、映画オリジナルキャラのリサに苦悩や葛藤を告げるシーンが印象的だ、その際、彼が反芻するのが「神にも悪魔にもなれる」というセリフ。「永井豪先生の原作でもアニメでも最初、甲児は死に際の祖父・兜十蔵博士からこの言葉と共にマジンガーを託されました。以来、人類のために戦い続けた彼にとって、この言葉はキーになり続けたはず…と考えて、今作でも使わせてもらいました。凄みがあって、さまざまな解釈ができる言葉ですよね」
「描きたいことを全部入れたら多分、倍以上の尺になっていました(笑)。ですけど小説や『インターバルピース』も含めて、キャラクターを十分に描かせてもらえました」という小沢。従来のファンも、新たに見る観客もロボットのみならず、スクリーンで生きるキャラクター1人1人に感情移入させられる物語を、じっくり味わってもらいたい。(Movie Walker・取材・文/トライワークス)
From: Click Here
Share This :
0 Comment